Stalvanの物語(4)
Darkshireの宿の主人Smittsは、私の話を聞き終わるとすぐにうなずき、重々しい口調でこう言いました。
「俺は何年もの間、このStalvanという人物を追っていたんだ。なぜなら、旅の貴族たちが皆殺しにされた時、俺も一緒に調査に加わってたんだが、その時こんなものを見つけたからだよ」
そういって彼が見せてくれたものは、泥のしみだらけの日記の数ページでした。それにしても、宿の主人は元軍人か、あるいは軍の隠密の仕事をしているようです。道理でこんな場所で宿を営むくらい肝が据わっているはずです。
「……彼女も私と同じ気持ちなのは、ほぼまちがいない。今朝、彼女は私の手に自分の手を重ねるというしぐさまでしたのだ。彼女がほほえむと、その瞳はダイアモンドのように輝く。言葉には出さなくとも私たちの気持ちは通じあっている……」
一ページ目は熱烈な恋の告白で埋まっていました。でも、なんだか思いこみが激しい気がします。そしてページをめくってみると…。
「……このような怒りと憤りが、この世に存在するとは!Tilloaが求婚者と一緒に現れたのだ。それも、みなの前で堂々と手をつないで!相手はまったくつまらない男だ。なのにTilloaは私をきちんと紹介することもせず、
「あら、こちらは勉強を教えていただいてるStalvanさんよ。とてもいいおじさまなの」
と言っただけなのだ。おじさまだって?それを聞いた時、私の顔は怒りで真っ赤になった。ほんのいくつか年上なだけではないか。彼女は私を裏切ったのだ……」
裏切るもなにも、Tilloa嬢は年かさの先生に対して、ごく普通に親しみを感じていただけではないのでしょうか。いやな予感がつのってきました。なにしろこれは殺人現場に落ちていた日記なのです。顔を上げるとSmittsは深刻な顔をして言いました。
「確かにこれを見つけたのは俺たちだ。だが、あんたが木こり村から持ってきた日記を見るまでは、書いたやつが森にいるあのいかれた男かもしれないとは考えてもみなかった。あんたが集めた紙切れが何か決定的な証拠になるかもしれん。ぜひ自警団の隊長のとこへ行ってくれ!」
森にいるいかれた男…?一体全体、それはStalvan本人なのでしょうか?ここへ戻ってきているのでしょうか?
すぐに隊長のところへ行き、これまでの話をしつつ日記を渡しました。すると隊長はタウンホールの事務員を呼び、血まみれのボロボロの紙を取り出したのです。
「そうです。私たちはStalvanをずっと警戒していました。彼には大勢の無垢な人々を殺した疑いがかけられています。しかし彼に手を下すだけの決定打がなかったのです。
これは現場で私が入手したものです。あなたが集めた手紙や日記と合わせて、タウンホールの事務員に、Stalvanが記した台帳の署名と比較した筆跡鑑定を頼みました。もうまちがいありません。これは同一人物が書いたものです。Stalvan Mistmantleの人生がなぜ堕落したのかは、神のみぞ知るところ。彼の住みかは街の北にあります。行って、彼に正義の裁きを下してください」
汚れ仕事は旅人にやらせるのか、とか、あんないいかげんな事務員の筆跡鑑定でいいのか、など色々矛盾は感じつつも、それよりも血まみれの紙が気になります。おそるおそる読んでみると、
「……絶望の底へと落ちていく。彼女はまず私をあざむいた。そして今日、彼女は婚約した。あのあばずれは私を愛するふりをしながら、その実、私を傷つけて楽しんでいたのだ。暗い虚無感が私の中に入りこみ、歩むごとにそれは大きくふくらんでいく。私が流した涙に比べれば、これから流さねばならぬ血の数など微々たるものだ……」
愛しさあまって憎さ百倍……Tilloaの一家を殺したのは、恋の恨みで気がふれたStalvanだったのです。やはり、恋は若いうちにたくさんしとくものです…。とはいえ、あまりに尋常でない変化ぶりも気になります。そういえば、彼の手紙を運んでいた配達人が何かにおびえて逃げ出したという話もありました。哀れなStalvanは最初から何かに取り憑かれていたのでしょうか?
Stalvanの家は、かつては見栄えのいい山小屋だったのでしょうが、見る影もなく荒れはて、食屍鬼がうろつくおそろしい場所になっていました。覚悟を決めて家の中に踏み込むと――
「Tilloa、Tilloaなのか?あぁああああ、ちがう!ちがう!汚らしいエルフめぇえええ!」
禍々しい何かが、彼の身も心もすっかり食べつくしたのでしょう。血まみれの剣をふりまわしながら襲ってくるその顔は、もう人間のものではありませんでした。同行してくれた友人の剣がやっととどめを刺しましたが、その顔は穏やかにはなりません。死んでなお、呪われたままなのです。亡骸の指にはまった、Mistmantle家の指輪だけが、彼がかつて何者であったかを教えてくれるものでした。
これで、Stalvanの物語はおしまいです。その後、彼の家は朽ち果てるままにおかれ、庭には「Tilloaの涙」と呼ばれる青白い花が咲くそうです。Stormwindのあるウォーロックは、その花はある強い毒薬を作るのに欠かせない材料なのだと言っていました。あまりにも呪いが強く、ちょっとやそっとでは浄化できそうにありません。
ああ、ひとつだけ浄化できたと思えるものがありました。事の発端となったEva夫人は、私が一部始終を話してStalvanの指輪を見せると、こう言ったのです。
「それではやはり、Stalvanは死んでいたのですね。なぜ彼がそのように堕落したのかは、誰にもわからないでしょう。しかし、あなたのおかげで多くの命が救われました。この指輪は私がなんとかできそうです」
Eva夫人は指輪に何かしらの魔力を付与し、私に返してくれました。今でもその指輪は私の手にあります。絶望の色は去らないものの、静かな悲しみに満ちた光を放つ不思議な指輪です。